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指を潰した 2001/07/23
指を潰した 2001.7.22

いや〜やっちまいまいた。技術者として25年以上やってきた私ですが、初めてのケガらしいケガです。
せっかくだから詳しいレポートを書いておきましょう。

2001年の7月13日金曜日の出来事です。13日の金曜日? 知らねえよそんなこと。
その日私は、朝から金型のメンテナンスをやっていました。ちょうど新規型が切れていて、メンテナンスが忙しかったのでそのお手伝いをしてたわけです。
夕方で気が緩んでいたのは事実ですね。その日は夜に飲み会が入ってました。前の会社を辞めた連中が集まって、一杯やりながら情報交換をすることになっていたのです。あれこれ考えていたから、集中力が散漫になっていたかもしれません。
でも、仕事に手を抜いていたわけではなく、取り立てて危険な作業をしていたわけでもありません。
そのとき弄っていた金型は、それほど大きなものではありません。一抱え程度で、重量にすればどのくらいかな? せいぜい50キロあるかないか、くらいだと思われます。
専門的な話になりますが、オールメンテで、上型下型をバラしてダイとパンチを研磨しました。
特に調整は無いので、そのまま下型を組み付け、上型のプレートのみ被せて合わせをみます。これがこの会社の方式です。私が前にいた2つの会社は、どちらも違う方法で組むのですが、それぞれに特色があるということですね。
ここまではまったく問題なく、上型を組み付ければ完成のはずでした。
上のダイセットを持ち、ひょいと持ち上げます。そしてプレートの上に被せます。ダイセットの重さはせいぜい15〜20キロくらい。厚さ50ミリほどの鉄のプレートです。このくらいのものならまったく問題なく、ふだん気にもせずに手で持って乗せているのですが、勢いよく置いた途端に、右手に痺れるような痛みが走りました。
すぐに手を退けて、見てみたのですが、右手薬指の爪の先が三分の一ほど割れていました。痛みはまったく無く、ただ熱く痺れるような感じでした。割れた爪の先の、指先の肉がいくらかはじけたように裂けていて、白っぽい肉がはみ出ていました。
どうやら、ダイセットとプレートの間に挟んだようです。
しまったな〜と思っていたら、見る見る血が吹き出てきたので、慌てて近くにいたO君を呼んで、サビオでぐるぐると巻いてもらいました。
爪を割ったり剥いだりするのは、これで何度目でしょうか? 血さえ止まればやがて生えてくるので、今度もそんなもんだろうと思って楽観していたのです。
しかし〜、おかしいな、血が止まらないぞ……。
たらたら〜と垂れてくるんですよ、真っ赤な血が。それもかなりの量で、手の平から手首まで流れ落ちるわけです。
それを見てたら急に気分が悪くなって、しゃがみこんでしまいました。目が回りそうで立ってられないんですね。
これは、貧血ってえヤツですか?
O君が「カメ山さん大丈夫ですかっ」と大声出すもんだから、皆が集まってきて、大騒ぎになってしまいました。
「何か敷くもの持ってこい」
「無理するな、寝てろ寝てろ」
「傷口を心臓より高くしたほうがいいぞ」
てな調子で、ダンボールを敷いた上に寝かされた私の周りには、あっという間に人だかりが出来ていたのです。
痛みは無いし、ケガは爪が三分の一欠けて指先がちょっと割れただけだから、まったく問題ないと思ったんだけど、このてのケガに詳しいプレスのK課長(右手の中指を第二関節から落としてますから)が言うのです、
「骨まで行ってるかも知れないから、念のため医者に行って見てもらったほうがいいぞ」と。
で、誰かが総務に連絡し、総務と社長もやって来ました。
やたら大げさになってしまって、もう私はおろおろするだけです。
ぜんぜん痛くないので起きようとすると、
「まだ起きちゃダメだ、しばらく横になって安静にしてろ」ってな調子で、起き上がらせてくれないのです。
社長が総務の人に指示して、結局私は医者に連れて行ってもらうことになったようです。
総務の女性が「どう? 立てる?」というので、田中真紀子に立つように言われた小泉さんじゃないけど、さっさと立ち上がったらちょっとめまいがしました。やはり血がいけませんね。昔から血を見ると気分が悪くなるんですよね〜。
総務の人に「情けないな〜、子供みたいじゃない」なんて言われたんだけど、血はね〜、どうも苦手。
さて、そんな按配で、医者に連れてってもらいました。指定の産業医は総合病院で大きな所なんですが、ちょうど大きなオペが入っていてダメだそうでして、近所の小さな外科に行くことになりました。
ここは、あんまり評判は良くないんだけど、本当に近くです。なんたって私の駐車場の横ですから。
診察をお願いして、受付の人と少しお話をしました。労災になるといろいろ大変だから、自分持ちでいいから労災でないことにしてもらおうと思ったんだけど、小さい医院だとあまり融通が利かないようで、残念ながらそのまま労災にされてしまいました。後で何か有ったとき、いろいろと問題があるみたいですね。
「いつもの総合病院ならけっこう融通が利くんだけどね」と、総務の人が残念そうに言ってました。
しばらく待たされて、いよいよ私の番です。
初老の先生がサビオを剥がして、傷口をしばらく眺め、看護婦さんに麻酔の指示をしました。
「麻酔し、まずは綺麗にブラッシングしてから治療に入る」ということです。
私は、ちょっと見たんだけど気持ち悪くなりそうだから横向いてました。
指の根元に2箇所麻酔を打ち、薬が行き渡るようにマッサージします。
5分ほどで指の感覚はなくなりました。
先生が「手が汚れているから綺麗に洗いましょう」といい、流し台に連れていかれました。流し台? って、温水器で洗うのかい?
この辺の眺めは、結構壮絶でした。温水器の下に洗面器を置き、先生がブラシで私の指をゴシゴシ洗うのです。
油まみれのコ汚い指が綺麗になり、赤黒い血が洗い流され、大惨事の全貌が白日の下に晒されました。(ってちょっと大げさか?)
全体的に血の気が無く、無着色のウインナーみたいな指の、爪は半分近く欠けていて、指先がバクっとはじけて中からは黄色っぽい肉がはみ出ていました。
綺麗に洗うと、確かに、どんな状況かよく分かりますね。
すぐに処置をしてくれるのかと思ったら、とりあえずレントゲンを撮ることになりました。
骨がどうなっているのか確認してからでないと、処置できないみたいなんですよ。
看護婦さんがガーゼを巻いてくれ、レントゲン室に連れてかれました。
正面と、横からのレントゲンを撮ります。
待合室でしばし待って、いよいよ処置です。
総務の女性が、「どんな処置をするのかよく見ておいてよ」と言いました。
「後で詳しい内容を報告しないといけないからね」だと。
レントゲンを見ながら先生が、ゴム手袋を付けました。慣れてるんだろうけど、飄々としています。
私はといえば、ベッドに横になり、白いマットに穴があいた所から薬指だけを出し、まな板の上の鯉状態です。
「割れた爪はどうせダメだから剥がそう」ゴリゴリ……。
「骨もちょこっと欠けてるから、この辺を処置しないといけないな」ガリガリ……。
淡々と処置が続くんだけど、私は、剥がされた爪の下の肉が裂けて真っ赤に染まっている様子を見ているうちに、また気分が悪くなってきたので、これ以上見てたらまた貧血になるかも知れないと思って顔をそむけていました。
一応心配なので、「指が短くなってしまうんですか?」と聞いてみると、
「そんなことはないよ。欠けた骨は戻らないけど、肉がくっ付いて爪が伸びてくれば、ほぼ元通りになるから安心しなさい」とのことで、いや〜ほっとしました。
処置が終わると、先生がペンチとやっとこを持ち出しました。何をするのかと思ったら、アルミの板をひん曲げて当て板を作り始めたのです。指先から根元まで当てて、その上から包帯でぐるぐる巻きにします。
「絶対に動かすな、触るな、汚すな、濡らすな」と言うことでした。
車の運転はいいけど、絶対にぶつけないように、との事でした。
明日また来なさい、と言うので、薬をもらって会社に戻りました。総務の人に、
「今年初めての労災だよ。今年は労災ゼロを狙ってたのに残念だわ」と言われてしまいました。あ〜ぁ。
「どんな処置をしたかしっかり見てきた?」と聞くので、
「気持ち悪いから横向いてました」というと、
「ダメじゃない、ちゃんと見とかなきゃ。後で報告書書かなきゃいけないのに」……だと。
会社に帰ると、残業している皆が心配して集まってきました。
ケガの具合を報告し、申し訳なかったと謝るのみですね。
それから、社長のところに行って、同じような報告をして謝りました。
それから、専務のところに行って、同じような報告をして以下同文。
それから、部長のところに行って、以下同文。
時間を見たら、飲み会にぎりぎりだったので、いったん家に帰ってシャワーを浴びて、飲み会に行きました。
前の会社を辞めた連中と、わいわい騒ぎながら情報交換をしたわけですが、同じ職場のF君(前の会社でも同僚で、今度の会社でのも同僚です)が、私のケガのことで職場が大騒ぎになっていたと教えてくれました。
「カメ山さんが指を潰したって、みんな大騒ぎでしたよ」とのこと。
そんな事言われたら、会社行くの嫌になっちゃうじゃないですか……。
その日は夜中までみんなと騒ぎ、帰宅したら12時過ぎでした。
麻酔が切れるとズッキンズッキン痛くなると脅かされていたのですが、そんなことはまったく無く、拍子抜けしたくらいです。
家族には、生爪を剥がして指先がちょっとだけ切れた、と言っておきました。

翌日は土曜日で、午前中に医者に行きました。
土曜日の医者というのは、混みますね〜。常連らしき婆様が何人かトグロを巻いておしゃべりしていました。
うんざりしながら待っていると、これまた常連らしいどっかのジジイが話し掛けてきました。
「あんたその指どうなさったね? ヒョウソウかね?」とか何とか言ってました。
ヒョウソウってなんだ? 見ると、ジジイも私と同じように右手の薬指に包帯を巻いてるんですね。
うるせえな〜とか思いながら、「ちょっと爪を剥がしてしまいました」というと、
「そうですかー、お仕事で?」とジジイ。
「ええまあ」
「それはいけなかったね〜」
で、それきり知らん振りしてたら、ジジイ、やっと諦めて他の人に話し掛けてました。
この爺さん、多少ボケてるのか、数日後もまったく同じように話し掛けてきて、まったく同じ会話を交わしました。やれやれ……。
そんなこんなで散々待たされ、私の診察が始まったのですが、包帯でぐるぐる巻きにされてたから気付かなかったのですが、ガーゼが結構どす黒く染まっていました。
痛みは無かったけど血は出ていたようです。
もう一回レントゲンを撮りなおすと言うので、撮り直しました。
昨日取ったものと並べて、先生が詳しい説明をしてくれます。
爪が剥がれたのは仕方ないとして、やはり問題は骨だそうです。
「指先の骨が粟粒みたいにちょこっと欠けてるだろう。ほらこの部分」
確かに、骨の先がちょこっと欠けているのです。
「これはもうくっ付かないから、昨日取りました」
ああ、欠けた骨は取ったのか。
「それからここ、欠けた骨の周りの部分がちょっと裂けてるのが分かるかな?」
う〜ん、確かにちょっと裂けているかもしれない。
「指を潰したときに骨が裂けて、先がちょっと欠けてしまったんだな」
なるほど……。
「これはね〜、思ったより時間が掛かるよ」
そうなのか?
「複雑骨折だからね〜。潰れた肉は割と早く再生するだろうけど、骨は時間が掛かるんだな〜」との事でした。
爪がちょこっと欠けただけのはずが、なんと複雑骨折という大怪我なんだとさ。
さらに先生は言いました。
「1週間は仕事を休んで安静にしていなさい」と。
私が、でも痛くないですよ、と言うと、
「何を言ってるんだね、骨が安定して肉がくっ付くまで大事にしてないと、指が元通りにならないぞ」と言うのです。
「労災なんだから安心して1週間休みなさい。本当は、腕に負担を掛けないように吊っていたほうがいいくらいなんだ。何なら吊ってやろうか」と。
いや、いいです、絶対にこの指は動かしませんから……と、辞退して帰ってきました。
先生はそういうけれど、自分の不注意でケガをして、1週間も休むわけにはいかないでしょう。
もちろん私の勝手な解釈ですが、ケガした指さえ動かさなければ問題ないじゃん。
日曜日は左手だけで畑仕事もしました。痛みはほとんど無いです。
気付いたことがいくつか有りました。左手だけだと顔が洗いにくい。それから、ウンコの後でおケツが拭きにくいぞ。拭いてるんだかなすり付けてるんだか分からん。あと、薬指が使えないと箸が持てないぞ。おかげでフォークを使ってご飯食べてます。

月曜日は実に憂鬱でした。会う人皆に端から謝り通しです。
朝礼では私のケガのことを言われるし、安全委員会に出す書類を2回も書き直しさせられるしで、散々です。
総務は見に来るし、専務もあれこれと聞きに来るしで、参りましたよ。
なぜ事故が起きたか原因を究明し、二度と起きないように改善しなければならない、っちゅうことなんだけど……。
原因といっても、単に私がうっかり指を挟んだだけの事で、本人が自分の不注意だったと言っているからそれでいいと思うんだけど、そうも行かないのが辛いところですね。
面倒くさくなったので、部長に、「作業者の不注意でいいんじゃないですか?」と言ったら、
「そうじゃない。事実事故が起きている以上は、作業方法を変えるなりして、二度と起こらないようにしなければいけないんですよ」と言われてしまいました。それはまあ、そうですね。
え〜い、私が悪かった〜、勘弁してくれぃ! てなもんです。
仕事ですが、左手だけでやるのは面倒くさいものです。思うように行かなくてイライラが募りますね。
ケガをしてもう1週間以上立ったのですが、右手のありがたさがよく分かりました。私の持っている技術のほとんどは、右手でのものなんですね。黄金の右手なんだな〜と実感。
もし、いま、どっかのお姉ちゃんに誘われても、ヒーヒー言わせられないかも知れないぞ。あはは……。
結局、1日も休まずに仕事に行ってます。
「まったく痛くない、大丈夫、何とも無いですよ」で押し通しています。
医者にも毎日通っています。爪が剥げたところは、順調に回復していて、もう9割方治っているそうです。骨はまだまだ時間が掛かりそうですね。それから、指先の方の傷はまだまだだそうです。
「指が潰れて肉がはじけたんだから、そう簡単には治らないよ」と言うことでした。
それでも順調は順調でして、先生も、
「人間の身体ってのは素晴らしいね〜。ちゃんとこうして治癒能力が働いているんだから」と言ってました。でも、まだまだ時間は掛かるんだそうです。なんたって複雑骨折ですから。
骨がくっ付き、傷がふさがって、爪が元通りに生えるまであとどのくらい掛かるんでしょうか?
カムバック、私の黄金の右手ー!

以上、私の初めてのケガらしいケガの報告です。指がもげなくて良かったですよ。これは、後からしみじみとそう思いました。
ちょっとした気の緩みでこんなことになってしまい、実に恥ずかしいです。
 
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